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糖質制限 医学論文のランセット説の解説

糖質制限 医学論文 ランセット説の解説

糖質制限の新たな説が2017年8月に医学論文の権威ランセット(Lancet)でリリースされました。

 

ここでは要旨と解説をするとともにその妥当性についても簡潔に述べています。

 

糖質制限に関する論争は絶えることがありませんが、このサイトでは「バランス論」に尽きることをお伝えします。

 

 

Mahshid Dehghan博士(カナダマクマスター大学)によって発表された新たな糖質制限説は以下のとおり。

 

※なお、英語による論文を訳す際により自然な日本語になるよう論旨に支障のない範囲で意訳をしております。

 

 

ランセットにおける新たな糖質制限説

 

■18ヶ国5大陸における「脂肪と糖質の摂取」と「心血管疾患および死亡率」の関連性 (コホート研究)

Associations of fats and carbohydrate intake with cardiovascular disease and mortality in 18 countries from five continents (PURE): a prospective cohort study

 

論文要旨

  1. 炭水化物の摂取量が多いほど、死亡リスクが上がる
  2. 「脂肪摂取量とどんな脂肪を摂取するか」は心血管疾患と心筋梗塞および心血管疾患死と関連していない
  3. 脂肪の摂取量とどんな種類の脂肪を摂取するかといった点は死亡リスク低下と関連している
  4. 飽和脂肪摂取量を増やすと、脳卒中リスクを抑制した

 

 

この研究が行われた背景

 

栄養の過剰摂取と心血管疾患及び死亡率の関わりはもっと議論されるべきである。

 

これまで発表されてきた最も汎用性の高いデータのほとんどは、栄養過剰の可能性が高いヨーロッパおよび北アメリカの被験者データだったため、他の国への適用性は不透明である。
※栄養過多な国の被験者のデータを他の国にあてはめられるかどうかの妥当性が不明

 

 

実験方法

 

この研究では18カ国の35-70歳(2003年1月1日〜2013年3月31日現在)の個人を被験者とした大規模な疫学的なコホート研究である。

 

  • 実験の中央値:7. 4年間
  • 被験者数:135335人
  • 記録の方法:既に検証済みの食物摂取頻度アンケート
  • エネルギー量に対する各栄養素(※)の配分量を5つに分けて被験者をグループ分け
  • ※炭水化物、脂肪、およびタンパク質

 

 

実験結果としての論旨への補足

 

5796人の死亡および4784の心血管疾患が発現。

 

これらのリスクを上げている要因として「炭水化物の摂取量」が挙げられる。

 

総エネルギーに占める炭水化物のカロリー数が一番多いグループの死亡率が一番高く、一番低いグループの死亡率が一番低かった。

 

 

新たな糖質制限説への所感

 

今回の糖質制限説は、従来までの「糖質の過剰摂取が『肥満のリスク及び死亡率を上げる』」といった論点のほかに次のような点が加わったと考えてよいでしょう。

 

脂肪をとったほうが死亡リスクが低くなる。特に飽和脂肪酸は脳卒中のリスクを抑制する一方、低質と言われていた脂質(トランス脂肪酸を含む脂質など※)を摂取しようと心血管疾患と心筋梗塞、心管疾患死とは関係ない。

 

ランセットおよびコホートが係わる格式の高い調査なのでもちろん信憑性は最高峰なのですが、この論旨の取り扱いには次のようにワンクッション入れた方がよさそうな気がします。

 

 

「炭水化物の摂取は死亡リスクを上げる」は「取り過ぎが問題なだけ」

 

炭水化物の摂取量が多い程死亡リスクが上がる、などと言ってしまうと極端な糖質制限が推奨されているような誤解を招きかねません。
※炭水化物とは糖質と食物繊維からなり、ここで問題にされるのは疾患リスクを上げる「糖質の摂取量」

 

総カロリーに占める糖質のカロリーが少なければ少ない程死亡リスクが少なかった、と言われていますが、しかし「極端な糖質制限でさえ健康を増進する、とか健康的だ」とは述べられていません。

 

適切な範囲での糖質制限が死亡リスクを抑制すると考えるのが無難なのではないでしょうか?その理由づけとしては以下の記事がご参考いただけると思います。

 

糖質制限の主食の問題

 

 

脂肪摂取量と脂肪のタイプによる罹患率および死亡率

 

脂肪の摂取量と脂肪のタイプ」に関する報告を整理すると以下のとおり。

 

  • 心血管疾患・心筋梗塞・心血管疾患と無関係
  • 死亡リスクを低下させることに関連する
  • 飽和脂肪摂取量を増やすと、脳卒中リスクが抑制される

 

つまり
脂肪の摂取量が多いと重篤な心臓に関する病気にはなりにくくなり、かつ死亡率も低下する、かつココナツオイルのような飽和脂肪酸を摂取すると脳卒中になりにくい。
と言えるのでしょう。

 

「脂肪の摂取量が豊富な方がよく、かつ心臓と脳への脂肪の扱いが異なる」点が今回の論文の注目すべき点だと思います。

 

 

「脂肪を摂取したほうが死亡や疾患リスクを低下させる」とはこれまで言われていた「脂肪は肥満の元。メタボのリスクも上げる。」といった考え方と異なっているので、

 

いったい何を信じればいいのか分からない!


 

などと誤解を招くかもしれません。論文で述べられれていた説を以下のように考えると脂肪に関する取り扱いがよりよくなるのではないかと思われます。

 

 

脂肪はいくら食べても大丈夫・太らない、だなんて本当?

 

糖質制限をメインテーマにした書籍で「シリコンバレー式自分を変える最強の食卓 デイブアズリー著」が注目を集めました。

 

著者は世界トップクラスの医学博士、生物学者、栄養士などの研究を統合、自らの人体実験に30万ドルを費やした「糖質制限のチャレンジャー」です。

 

書籍の中では「脂肪をいくら食べても太らない、そして脂肪にはいい悪いがある」と述べられています。

 

※良質な脂肪分を摂取することが推奨されている点は、先の論文の「重篤な心臓に関する病気の取り扱いにおいては脂肪の種類を問わない」といった点とは異なるのかもしれません。筆者も「脂肪にはいい悪いがある」に賛成です。

 

■デイブアズリーによる脂肪の考え方

 

  • 一日のカロリー摂取のうち5-7割を適切な脂肪で摂る
  • 適切な脂肪を沢山とるようにすると自然に脂肪をエネルギーに変える体に変わっていく(高品質なオイルを使うように体に教え込むと高性能な体になっていく)
  • 人の細胞は脂肪でできており、最適に機能させるために良質な脂肪が必要
  • 糖質を制限して適切な脂肪を摂取すれば体は極めてエネルギー効率が高まる
  • 正しい脂肪とはココナツオイルのような「飽和脂肪酸」である
  • 多価飽和脂肪酸は酸化による影響で細胞の炎症やダメージを引き起こす(酸化しやすい脂肪が活性酸素と結びついて、体に害となる)

 

総カロリーを5~7割脂肪分で摂取するなどと聞いて驚くかもしれませんが、デイブアズリーはその食生活で実際に「太らない経験」をしていると言います。

 

実は筆者もこのデイブアズリーの脂肪の考え方でを自ら人体実験※しましたが、確かに体重は微増もしませんでした

 

上で言う「正しい脂肪」を適切に摂ると、エネルギー効率が上がるメカニズムは、以下のように説明できそうです。

 

 

※著書の中で述べられている推奨の”正しい脂肪の摂取量”は女性で一日あたり90~120g。筆者は一日150g程度のココナツオイルを自己責任において5ヶ月間継続摂取

 

 

中鎖脂肪酸はエネルギー変換率に優れるから太りにくい

 

 

以下は三大栄養素が腸管で吸収された際にどのような物質に変化するかを表しています。

 

  1. 炭水化物→ブドウ糖(+食物繊維)
  2. 脂質→ケトン体
  3. タンパク質→アミノ酸(→体内にブドウ糖が枯渇した場合ブドウ糖へと変化)

 

体や脳のエネルギーとして一番初めに活用されるのがブドウ糖。糖質制限をすると、すぐにエネルギーとして活用できるブドウ糖が不足してしまうことになります。

 

デイブアズリーによって推奨されている「よい脂肪:飽和脂肪酸:ココナツオイル」に含まれる中鎖脂肪酸に関してはケトン体となってエネルギーになるスピードが速く、ブドウ糖に変わる代替エネルギーとして活用できる点が高く評価されるでしょう。

 

 

デイブアズリーの著書で述べられていることと、ランセットにおける新たな脂肪に関する説の共通点は「飽和脂肪酸の有効性」。

 

論文の要旨では飽和脂肪酸が脳卒中のリスクを抑制すると述べられているに過ぎませんが、しかし飽和脂肪酸の優れたエネルギー変換効率は糖質制限における代替エネルギーの助けとしてより注目されるはずです。

 

 

まとめ:新たな糖質制限の見解ランセット説の取り扱い

 

糖質制限は論文とおり適切なレベルで実践すると健康を増進するのでしょう。

 

しかし極端に制限するのが推奨されているわけではなく、糖質を制限した先に代替のエネルギーとしてタンパク質の過剰摂取による健康障害が起こりかねないのも注意です。

 

>>糖質制限で陥りやすいタンパク質の過剰摂取障害

 

筆者は脂肪分の摂取に関して「中鎖脂肪酸が体のエネルギー効率を向上させる」と考える一方、脂肪分ならなんでもいい訳ではないと考えます。少なくてもファーストフードなどで使用されているトランス脂肪酸入りの脂肪が健康を増進させる(または維持する)とは現実的に考えにくいからです。

 

 

筆者のおすすめの脂質はココナツオイルのほか、汎用性の高いオリーブオイル、そして魚介に含まれるEPAおよびDHA

 

糖質制限し過ぎるあまり対人関係で印象を悪くする損失は避けたいものです。そして美味しいと思える感覚も大切でしょう。糖質制限はバランスの問題に尽き、均衡をどう保つかの目安は上述の記事にて解説しています。

 

糖質制限は緩やかにし、糖の吸収抑制を助けてくれる補助食品なども上手く活用するのもよいのではないでしょうか。下記をご参考ください。

 

 

 

製薬会社の糖の吸収を穏やかにする難消化性デキストリン


 

製薬会社の「DHA・EPA」


 

 

 

参照サイト:Lancet
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(17)32252-3/abstract

 

【追記】
なお、ランセットに掲載されている論文の解釈で注意したい箇所は以下の点です。

 

①「関連性がある」という表現は因果関係を示すものではない
糖質を多く摂った結果、死亡率が上がっているわけではなく、飽くまで統計学的な論点に過ぎないことを意味します。

 

②ランセットに掲載されるバーグマン博士の糖質制限に関する論文で、他のサイトで解釈に飛躍や論理破綻している記事があろうと、本記事はそれを否定または支持する考えはない
本稿は他の記事を批判するために執筆しているわけではありません。
糖質を適度に制限することが健康を維持するために役立つのならば、そのガイドラインや目安をどのように考えればよいのかを示し、また過度な糖質制限が健康を損ねないようにするために代わる方法(ソリューション)を提示するといった趣旨に基づいて執筆しています。